vol.55 大阪府立大学大学院(現 大阪公立大学大学院)による屋外空間研究 屋外ワークプレイスの可能性を秘めるOBP

2022.12.26 更新

2022年11月11日、OBPエリア内では大阪府立大学大学院(現 大阪公立大学大学院)の院生による実験が行われました。それは、OBPの屋外空間の環境は「知識創造活動」にどのように影響を与えるかについて。
OBPが緑の多いビジネス街であることはご存知の皆さんも多いかと思いますが、その緑が「屋外ワークプレイス」を切り口にした時、どのような効果があるのかの調査です。日頃より仕事で考え事の多いワーカーさんには興味深い内容かもしれません。

「知識創造活動」でOBPのケーススタディを探る

「知識創造活動」でOBPのケーススタディを探る

この研究は、大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科 緑地環境科学専攻 緑地計画学研究室の杉原るるさんによるもの。杉原さんはランドスケープデザインに関わる研究をされている修士2回生であり、屋外ワークプレイスの可能性について研究を重ねられています。
その一環としてOBPをケーススタディに、この度の実験に至りました。

本研究においては「知識創造活動」がいかに向上するかを調べます。
「知識創造活動」とは、「情報処理」「知識処理」「知識創造」の3段階に分けられる知的活動の中でも、もっとも高次のレベルにあたり、価値創造やイノベーションなどを含むものです。

「知識創造活動」でOBPのケーススタディを探る

前号vol.55にも関連しますが、コロナ禍によってオフィス空間のあり方など「働く環境」にはこれまでになかった変化・気づきが生まれ始めています。
特に屋外空間をワークプレイスとして利用すると「リフレッシュ」や「良いアイディアの発想」などの効果が得られるとの研究成果が出ていると杉原さん。
今回の研究はそんな屋外空間の“質”に着目し、同じ屋外であっても緑の多さ、開放感などの違いによって「知識創造活動」に影響があるのかを見ていきます。

それぞれの環境で「知識創造活動」は変わるのか

実験は以下の4ヶ所で実施。

OBP円形ホール東側

・OBP円形ホール東側:視認できる緑量が多く、多種類の高木や中木で構成される空間

松下IMPビル南側

・松下IMPビル南側:植え込みの緑を背に中央広場に面した開放感のある空間

富士通Osaka Hub西側

・富士通Osaka Hub西側:ケヤキ並木を背に、建物壁面を目の前にした空間

ツイン21MIDタワー31F会議室

・ツイン21MIDタワー31F会議室:屋外との差を測るための唯一の屋内環境。窓からの眺めも遮断した空間

それぞれの環境で「知識創造活動」は変わるのか

これら4ヶ所の環境のもとで被験者はブレインストーミングを行います。作業に取り掛かる前に、まず5分間、景観を眺める時間を設け、その場の環境に慣れていきます。
その後作業を開始。マインドマップを用いて、一定時間にひとつのキーワードからどれだけ関連ワードを広げることができるかといった作業から、屋外環境と知識創造活動の関係を探ります。

それぞれの環境で「知識創造活動」は変わるのか

各所では、気温、湿度、照度、騒音、風速など、気象条件や環境の差も確認します。

本研究を進めている杉原さんは、2022年3月に「大阪市内在勤者を対象とした屋外空間のワークプレイスとしての利用と効果に関する研究」を発表しています。(※杉原るる、松尾薫、武田重昭、加我宏之の大阪府立大学大学院生命環境科学研究科4名による研究発表論文)

『都市の屋外空間のワークプレイスとしての利用実態に関する研究は,特定の屋外空間を対象とした把握に留まっている。』(※研究発表論文より
として、屋外での仕事経験のあるワーカーが利用する場所、そこでの仕事内容、環境選択の理由や効果はどこにあるかなど、屋外空間のワークプレイスの可能性を追求するためアンケート調査を実施しました。

その結果、利用頻度や空間特性によって仕事内容や場所の選択理由に違いが見られ、屋外空間はリフレッシュやリラックスといった屋内での仕事から気持ちの切り替えを行うのに効果的であることが分かったそうです。
また、屋外空間の利用頻度が高い人ほどモチベーションの向上や良いアイディアが浮かぶなど、仕事内容の向上にも寄与していたことが明確になったとのこと。
果たして、現地の調査はどのような結果となるのでしょうか。

10代の経験が緑地計画学への道を決める

10代の経験が緑地計画学への道を決める

もともと四国で育った杉原さん。
中学生の時に大阪市内へ引っ越してきたことで感じた環境の変化から、現在の緑地計画学に興味を持ち始めたそうです。

「今の研究に興味を持ったきっかけとして、私のバックグラウンドは大きいと思います。窓を開けたら山を臨める毎日から、月に一度山を見るかどうかの環境となり、この違いは私にとって180度の変化でした。
ただ、10代の頃は大阪の街を知らないこともあり、今では中之島など大阪にも良い緑の空間があるなと感じています。
今回の研究対象のOBPの豊かな緑は、自分にとって身近な場所であることに加えて、都心で生活する人々にとっても貴重なオープンスペースだと考えています。」

OBPエリアには座れる屋外空間が280ヶ所!

OBPエリアには座れる屋外空間が280ヶ所!

今回OBPエリア内のどこで実験を行うか、その選定にも苦労があったようです。

「ひと月前に実験場所を選ぶにあたって、ベンチや植え込みの縁、川沿いの緑道などを含めて“座れる空間”が何ヶ所あり、それぞれ空間がどのような特徴を持っているかを調査しました。
その結果、実はエリア内には280ヶ所もの座れる空間があるとわかりました。OBPにこれほど座れる場所があるのだということには自分でもびっくりしています。実験場所となる屋外の3ヶ所は、『緑の条件の違いによる人への効果』を調査するために、ベンチの条件などの緑以外の条件は統一して選定しましたが、選ぶのは大変でした(笑)
最終的には、知識創造活動がより生まれそうかどうか、自分自身の感覚も踏まえ決めていきました。」

OBPエリア内に280ヶ所も座れる場所があるのは驚きですね。
自分にフィットする屋外空間探索をしてみるのも面白いのかもしれません。

街並が美しいOBPのランドスケープデザインを知る

街並が美しいOBPのランドスケープデザインを知る

実験を終えた後、まち開きから関わっておられるOBP協議会のアドバイザー松本敏廣さんから、杉原さんをはじめ実験に参加された同研究科の大学院生や学部生へのお話・質問会が行われました。
戦後、OBPエリアがどのように成り立ち、まちづくりのデザインがどのようになされていったのか、その流れを追いながら、学生たちはOBPのランドスケープデザインを学びます。

当初、電気、ガス、水道などライフラインが何もなかったエリアを企業が協働でまちづくりを進めたOBP。
そのまちづくり最大の特色はスーパーブロック(大規模街区)を採用している点にあります。
これまでの既成市街地では建築物ありきで道路を巡らせる設計となり「車のための道」や「人のための道」を分離するのが難しかったのに対し、スーパーブロック方式では初めに敷地を分割したうえで建物を自由にレイアウトすることが可能になるとのこと。
そんなスーパーブロック方式を採用したOBPは、人と車が分離されたヒューマニティの高いスペースを創り出しており、歩行者優先の考え方から街路樹も豊かで、車の出入口を制限もされています。「緑豊かなビジネス街」というOBPエリアの個性もこの方式によって実現できていると言えます。

また、思わず一同が「へぇ〜」となったポイントはOBPエリア内に『電柱がない』ということ。日本国内でも、ありそうで少ないとのことで、これもまたすっきりとした美しい街並を実現している要素となっています。

その後、聞いていた一同からは、
「当初のまちづくり計画から変わった面もあるが、新たに進んでいっているOBPの街並や課題についてどう思うか?」
「エリア全体として『ビジネスパーク』としてのテーマを掲げているが、各ブロックにおいてもそれぞれテーマ性を持っていたのか?」
といったように、さらにOBPエリアの理解度を深める質問が飛び出しました。

緑の影響は大きい

緑が視界に入る影響は大きい

実験を終えて1週間後、杉原さんに再度インタビュー。実験を終えて見えていること、予想されることについてお伺いしました。

「実験を終えた今は、マインドマップを分析しています。屋外空間では屋内(会議室)よりも出されたワード数が多く、成績が良いという結果になりました。時間経過による作業慣れの影響も見られないので、OBPの屋外空間は働く方にとって価値が高いことは明らかにできそうです。
また、3ヶ所の屋外空間の比較では、IMPビル南側が、屋内空間と比べて特に良い結果となりました。
当初、私の中では緑に多く囲まれた空間であるOBP円形ホール東側が最も良い成績になるのではないかと仮説を立てていたのですが、単純に『緑の量が多い=良い影響が出る』ということではなく、緑の見え方や植栽の構成、静けさ等の諸条件が良い影響に繋がるのではないかとの予測が立ってきています。
今回IMPビルの環境としては、周囲からの視線も少なく、開放感がある空間だったので、そのような点も成績に影響が出たのかもしれないと感じています。」

緑の量だけではない、という部分は大変興味深い結果です。

ワークプレイスとして十分期待ができるOBP

ワークプレイスとして十分期待ができるOBP

また、今回の実験を通して、杉原さん自身がOBPに感じた印象を伺ってみたところ、次のようにお話くださいました。

「1つのエリア内でも場所によって、緑の種類や空間構成が違い、樹木の位置も異なっており、多様性を持った緑が整備されている点はおもしろいなと感じました。
松本さんからのお話に、人の賑わいを求める人、落ち着いてビジネスをしたいという人、両者の兼ね合いが難しいという指摘がありましたが、屋外空間をワークプレイスとして活用できれば、落ち着いていてビジネスをしたい方にとっても利用しやすくなるかもしれません。
外から人を呼ぶ商業としての賑わい要素のほかに、OBPのワーカーさんが積極的にエリアを活用することで出せる賑わいもあるのではないかと思ったので、今回の実験を通して屋外を活用したワークプレイスについて提案していきたいなと感じました。
何よりもまずは、OBPエリアには280ヶ所も利用できる屋外空間があるということを認識していただき、屋外ワークプレイスを体験していただけたら嬉しいなと思います。」

切り口を変えれば新たな可能性が見えてくる

今回の実験は、エリアにとってもポジティブな発見が生まれました。
これまで「まちづくり」や「賑わい」という視点で眺めることも多かったOBPですが、純粋に「ビジネス街」として改めて見つめることができる機会となったのではないでしょうか。
毎日を過ごすワーカーの皆さんが、積極的に屋外の緑を活用して仕事をする、そんな光景を見る日も遠くはないのかもしれません。
是非自分オリジナルの屋外ワークプレイスを見つけてみてください♪

※今回の実験に関する2022年度の論文は2月上旬にこちらで発表される予定です。是非ご覧ください!

Wanted!

OBP Style では、特集記事のネタを募集しています。
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大阪ビジネスパークに関するテーマ限定ですが、様々なテーマを掘り上げていく予定です。
ぜひこのテーマをというのがおありでしたらご一報ください。
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