vol.44 コロナ禍をきっかけに考える新時代のビジネスの創造 共創が生み出す未来の社会価値【前編】

本メディアでも度々言葉にしてきた「新型コロナウイルス」。終焉はもう少し先の模様です。今回のインパクトは、これまでの日常の常識だと思っていたことを一度見直してみる機会になった方も多いのではないでしょうか?
今回はOBPに拠点を構える3つのビジネス交流空間へ取材を行いました。これらの空間では、コロナ禍を通じてどのような発見があったのでしょうか。リサーチしてみます。

OBPエリアを拠点とした3つのビジネス交流空間

昨年よりOBPエリアにおいて、共創を目的として空間を構える企業3社にご協力いただき、取材を重ねてきました。
この3拠点にもコロナの影響は及んでいましたが、日頃より社外との接点を持つ共創空間では、コロナ禍をきっかけにそれぞれが新たな気づきも得られた様子でした。
【前編】の今回は、「NEC Future Creation Hub KANSAI」「FUJITSU Knowledge Integration Base PLY OSAKA(以降PLY OSAKA)」の2拠点。そして、【後編】には「KDDI DIGITAL GATE 大阪」で伺ったエピソードをお伝えします。

NEC Future Creation Hub KANSAI:
ITが飛躍的に成長する中、個人はITを意識せざるを得ない

非接触を当たり前に。ロボットと共存する日常が近づいた

非接触を当たり前に。ロボットと共存する日常が近づいた

以前、OBP Styleでも取材をした「NEC Future Creation Hub KANSAI」に再び訪れたところ、前回より更に技術のアップデートが進み、顔認証システムはマスクをしたままでも認識されるようになっていました。
コロナ禍以降は、「非接触」や「非対面」に関する技術・サービスへの問い合わせが急激に増えているそうです。

また、「YUNJI SAIL」(ユンジ セイル)と呼ばれる自律走行型案内ロボットは、窓口を行き来する必要がある病院や公共施設を中心に、導入が始まっているとのこと。
音声を認識するロボットのため、非接触・非対面での窓口対応・案内を可能にすることはもちろん、人手不足の解消にも一役買っている存在になっており、まさに今の時代にフィットしています。
ロボットに案内を受けるのはまだまだ非日常のことかもしれませんが、これが当たり前となる日も徐々に近づいていると感じさせられます。

技術の発達は、社会をフラットにしていく

技術の発達は、社会をフラットにしていく

NEC Future Creation Hub KANSAI センター長の末吉聖美(すえよしきよみ)さんによると、顔認証を社内環境で包括的に取り入れることで、社屋への入場、コピー機やオフィス内自動販売機の利用、施錠ドアの解除など、社員証が必要だったあらゆる場面に活用できるそうです。
NEC本社ビルでは既に実証実験が行われているとのこと。
これが実現すれば、オフィスでの日常的な行動は劇的に変わる予感がします。

また、末吉さんは訪れたお客さんとの会話で、ご自身の気づきもあったと話してくださいます。
「ユニバーサルデザインに携わる方とお話で出たのは、日頃の生活でハンディキャップのある方にとっても便利になるのではないかということです。例えば、障がい者の方は、サービスを受ける場面で障がい者手帳を出す場面があるのですが、もしも顔認証技術の導入があれば、そのひと手間は減らすことができるのではないか、と。
私の身近にも障がい者手帳を持つ人がいますが、あまり外出したがらない理由のひとつには、自らを障がい者と改めて示さないといけないことを面倒だと感じていることがあるのかもしれません。
IT技術は “ITへの感度が高い人”が率先して使いこなすものだというイメージがあるように思いますが、それとは関係なく、生活の中で配慮が必要な方にとっても役に立つ可能性があるのだと、改めて気づかされました。
世の中が急激にアップデートされることで、様々な立場の人がフラットに暮らせる社会へと近づいているのは、良いことではないでしょうか。」

企業、個人、ともにITリテラシーの底上げが大切

企業、個人、ともにITリテラシーの底上げが大切

末吉さんは、技術が便利になる半面で、情報の取り扱いや情報弱者への対応など考えなくてはならない点もお話されます。

「このような技術を使うためには、導入する企業の情報管理が重要なのはもちろんですが、個人としても、個人情報の利用許可を認識することが大切です。
そして、より便利な社会づくりをするために、事業者は生活者へ新しい技術やサービスについて、わかりやすく説明する努力も必要になります。
しかし、『よくわからないから、やらない』という個人が多ければ、いくら国でデジタル化を推進していても、社会全体の歩みとしては鈍くなってしまうのではないでしょうか。
どちらか一方が気をつける話ではなく、事業者、個人がともにITリテラシーを上げていかなくてはならないことなのかなと思います。」

デジタルサービスが増えていくことによって、今後も考えられる情報格差(デジタル・ディバイド)の問題。個人も変化に対してアンテナを意識的に張ることが、これからの時代を進むためには必要不可欠な要素だと言えます。

FUJITSU PLY OSAKA:
新時代のコミュニケーションの在り方

新たな働き方「テレワーク」の現実

新たな働き方「テレワーク」の現実

富士通関西システムラボラトリ1Fにあるコワーキングスペース「PLY(プライ) OSAKA」。
お話いただいたのは、2018年にオープン時より運営を担当されている、辻よしふみさんです。

富士通株式会社は2015年よりテレワークを推進しており、コロナ禍に突入する後も早々に働き方を切り替えたことは、新聞やニュースで話題となりました。
現在は、PLY以外にも地域のコワーキングスペースと提携し、社員が自宅以外でもテレワークを行いやすいように環境が整えられているそうです。

辻さん自身もテレワークをしてみると、効率的だと思う反面、課題も感じると言います。

「テレワークだと家の集中に限界があるので最寄りのコワーキングスペースを利用しています。様子を見ていると、一切会話をせずに黙々とパソコンに向かうスーツ姿の利用者が多く、淡々と作業を終えて帰るといった“作業場”としての利用が目立ちます。
テレワークは通勤や会議室予約が要らないなどの効率化は実現しても、『テレワークには自分の仕事の質を上げてくれる』という付加価値はあるのだろうか?という問いが浮かびました。
コワーキングスペースは本来、普段交わらない社外の人とのコミュニケーションによって新たな発見や共創のきっかけが生まれ、本業にも良い影響が出る場所のはず。
コロナ禍をきっかけにコワーキングスペースを使い始めた人も増えているのではないかと思いますが、ただの作業場として利用するのは勿体ないと感じます。」

コミュニケーションは“越境”がポイント

自らが運営者として動いているからこそ感じる問題点を教えてくださった辻さん。
コワーキングスペースなどの共創空間では何が必要か質問してみると、利用する側・提供する側の双方に言えるポイントを話されました。

新たな働き方「テレワーク」の現実

「どちらにも、コミュニケーションを意識した動きは必要かと思います。
利用する側は、普段会えない外部の人ともっとコミュニケーションを取ろうとして良いですし、スペース運営側はただ受付するだけではなくて、利用者同士のコミュニケーションが活発になるようマネジメントする必要があります。
会社に所属していると、良くも悪くも自分のところに仕事が回ってきます。それを捌けば良いので、新たにコミュニケーションを取る必要がないと考えてしまうのかもしれません。
しかし、フリーランスなど自身で仕事を作っていく人を見ていると、次々にその人のまわりで業界・職種関係なく“軽いノリ”から会話が生まれ、気がつけば様々なプロジェクトが起きています。
組織の中での動きに慣れている場合は、マインドから変えていかないと、スペースは“作業場”としての存在で止まってしまいがちで、コミュニケーションが発生しません。結果的にプロジェクトが起きるようなコミュニティは生まれないのではないでしょうか。」

変化の大きい新時代を乗り越えるには、これまでの組織内での“縦向き”のコミュニケーションに加え、組織や業界を越境するような“横向き”のコミュニケーションが鍵となりそうです。

100人中1人だけに響くものを

PLY OSAKAのイベントはこれまで現地開催でしたが、今の状況下においては、すべてオンライン開催に切り替えているとのことです。
オンラインツールなど手法にこだわらず、コミュニティの本質を見極めようとされている辻さんがめざす所は何かお伺いしました。

100人中1人だけに響くものを

「折角なので、オンラインにしかできない挑戦をしています。例えば、VRを利用して空間を南の島の設定にして楽しんでもらったり、テレビ番組を観ているようなエンタメ感覚で参加できたり。
取り扱うテーマがニッチなものである場合、オンライン開催のほうが全国各地から興味の高い人が集まるので、イベントも盛り上がるんだなという点は発見でした。
僕は『○○がしたい!』と熱意を持った方が集まれる場所づくりを目指しているので、『この人、面白い!』と思ったらこちらからお誘いもします。熱意がある人がいるだけで、コミュニティが活発化するからです。
コワーキングスペースでは、イベントで人を集めてもその後コミュニティに発展せず、具体的な活動も生まれないケースがよく見られます。
『なんとなく人との繋がりがほしい』という曖昧なイメージで来る人が多いと、このようなケースが起きやすいのではないかと考えています。
最近気づいたのは、“あらゆる人を集める”よりも“共創相手の選択”がコミュニティづくりには大事であるということ。
コミュニティマネージャーとして、今後も100人中1人に響くぐらいの具体的で尖ったテーマを企画して、より熱意を持つ人が楽しめる場所にしたいです。」

もしも改めて自分の立ち位置や仕事について考える場面にいるなら、オンラインでもオフラインでも、手法にはこだわらずに、普段会えない違う分野の人との意見交換で視野を広げることは大切ですね。

2拠点の共通項は「個人の興味・アンテナ」

今回ご紹介した2拠点のお話からは、共通して、個人レベルでアンテナを張って行動していくことが重要だと分かります。
オンラインで物理的な面が便利になった一方で、社会生活には欠かせないコミュニケーションで、不便さを感じる方もいるかもしれません。
この不便さに対して、個人はどのように向き合うか、どのように行動するのか。
これまで無意識に受け入れていた、当たり前の日常を一度振り返ってみる良い機会かもしれません。

さて、【後編】では、KDDI DIGITAL GATE 大阪の事例から、これからの共創ビジネス、仕事の在り方について考えてみます。仕事術にも落とし込めるヒントをいただきました。
お楽しみに!

Wanted!

OBP Style では、特集記事のネタを募集しています。
OBP内のイベントや活動、人、場所あるいはOBPに対する疑問、もっと知りたいことなど。
大阪ビジネスパークに関するテーマ限定ですが、様々なテーマを掘り上げていく予定です。
ぜひこのテーマをというのがおありでしたらご一報ください。
ご連絡は『OBPスタイル編集部』まで 

ページの先頭へ